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2019.6.11
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今どき☆新シニア研究所稲葉光亮に聞く 人生100年時代のシニア・マーケティング <前編>
#Column
2019年、日本は平均年齢が46歳、60歳以上の人口構成比が34%の「超高齢社会」となっている。人口のボリュームゾーンとなったシニアマーケットだが、その嗜好や生活スタイルは多様化し、ますます捉えにくくなっている。数年前から登場した活動的で現役志向の強い「アクティブシニア」に加え、当社の独自調査で見えてきたのは、さらにこだわりの強い「オタクティブシニア」の出現。また、新しいターゲット層として50代も視野に入れる必要性が出てくるなど、シニア・マーケティングはますます進化&深化の一途を辿っている。
「人生100年時代」「生涯現役」などと言われるように、これまでに経験したことがない長寿社会で、誰もが手探りで新しい生き方を模索している今だからこそ、改めてシニア・マーケティングについて考えてみたい。今回はその第1弾として前編と後編にわたって、当社のシニアプロジェクトチーム「今どき☆新シニア研究所」のリーダーを務める稲葉光亮に、今どきシニアの実像を紐解いてもらった。
TVアニメを見て育った最初の世代。スポ根もアイドルも好き。
―今どきのシニア像というのはどんなものなのでしょうか。
まず「今どき☆新シニア研究所」について説明しますと、2年前の2017年まで、60代を中心にシニア層を対象としたマーケティングサポートを行なっていたプロジェクト「アラ☆ダン研究所」が新しくなって、「今どき☆新シニア研究所」になりました。今のシニア像を反映しての変更です。当社が「シニア」と呼んでいる60代は、もはや昔の「おじいさん・おばあさん」とは呼べないんですね。年齢こそ重ねているものの、若い時からアグレッシブに人生を楽しんできた世代がその年齢帯に相当するからです。
―「アラ☆ダン研究所」の「アラ☆ダン」はアラウンド団塊世代の略でしたね。
はい。「団塊の世代」と呼ばれる1947年から1949年の間に生まれた戦後ベビーブーマーの方々が、2019年には、ついに全員70代になります。推計650万人います。すると彼らの抜けた60代は、全員「ポスト団塊世代」で占められることになります。推計1,740万人。ボリュームがあることも忘れてはなりません。
―「ポスト団塊世代」と、「団塊世代」との一番の違いはなんですか?
物心ついた時からTVアニメを見ていたことですね。「鉄腕アトム」や当社が関わった「エイトマン」を最初に見た世代です。小学生のときに前回の東京オリンピック・パラリンピックに接していますので、「巨人の星」などスポ根も好きです。
そしてこの世代は、中学生になると、青春ドラマとアイドルに熱をあげることになります。“追っかけ”は当然で、“親衛隊”を結成したのも彼らです。高校生になると渋谷など街の文化も変えて行きます。1973年にオイルショックが起こって高度経済成長が終焉し、不安な世相を反映した『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』等にもしっかりハマりました。学生運動で大学キャンパスにすら近寄れなかった団塊世代とは大きく違い、大学時代はサークル活動と学園祭・音楽に燃えました。
つまり、今や日本発グローバルの文化となった「サブカルチャー」の開拓に小中高大を通じて立ち会ったサブカル・フロンティアたちなのです。彼らの強烈な個性は侮れませんし、逆に、私たち現役世代の考える文脈に理解を示してくれる可能性が高いと思われます。
―なるほど。開拓精神溢れ、新しいことにも敏感なわけですね。
60代シニアは情報接点の中で明らかにネットのウェイトが高まります。勿論、テレビ、新聞への接触も強く、接点としては相変わらず外せません。元祖テレビっ子ですからね。つまり、レガシーメディアにデジタルメディアの接点が足し算された、史上最多・最大の接点面を持つ生活者とも言えます。
主役は“アクティブシニア”から“オタクティブシニア”へ。
―シニア・マーケティングの主役は、いわゆる「アクティブシニア」と言われる層なのでしょうか。
シニア・マーケティングの可能性を示したのが「アクティブシニア」という、元気で消費も活発なシニア層の出現で、2011年に団塊世代が完全退職を始めた頃からそれが顕著になりました。その意味でも団塊世代はそれまでの「シニア=おじいさん・おばあさん」の常識を覆したと言えます。
2011年にオリジナルシニアクラスタ「アラ☆ダン11」を作成してマーケティングへの活用を開始したのですが、これは、「ADK生活者総合調査」*の60歳以上の対象者を、生活価値観への回答傾向から男性5タイプ、女性6タイプの計11タイプのクラスタに分類したものです。その中には、現役意識にこだわり、健康や食・趣味など幅広い領域に貪欲に関わり、お金と時間を使う層が男女とも相当数存在しました。そうした、目に見えるポジティブ層を狙うのがシニア・マーケティングの第一歩と意識して業務を推進してきました。
それから数年を経て、その団塊世代が70代に差し掛かり、60代の中心がその後の世代になったことを受け、彼らの意識や行動は何か違うのではないかとの仮説に基づいてシニアのクラスタを切り直したのが、2017年に刷新した「新シニア11」です。
特に男性に際立った“新種”が出現します。それが「オタクティブシニア」と名づけたクラスタです。
―「オタクティブシニア」は、「オタク」的な「シニア」、ということですか?
一言で特徴を表すなら「流行感度の高い自分こだわり・個性派」。「自分はオタク」という気質が強く、個性を重視しマイペース。ちょっと人見知りで社交下手なのだけれど、情報感度が高く、流行やファッション、新商品への感度が現役層並みに高い。ネットリテラシーが高いこともあり積極的に情報を集め、またSNSなどで秘かに配信する人も多いようです。特に60代前半にその構成比が多いことから、これからのシニアの中核を成す人たちかもしれないと考えました。
勿論女性にもそういう気配を見せる層がいて、「マイペース美的シニア」という女性クラスタは、健康・美容・ファッション・ブランドのことに執心で、仲間もいるけど自己主張が強い。ちょっとわがままでカワイイシニアの姿が垣間見られます。
そもそも男女の別なく、60代における「私はオタクっぽい」という意識(四段階評価のTOP2スコア)は、2012年と2017年を比べると1.5倍に伸長しているという驚きのデータもあります。オタクという言い方が悪ければ、こだわりと凝り性。正直、団塊世代ほどお金持ちではない人もいるので、じっくり吟味し、お金の使い道をしっかり考える。でも、好きで、これだ!と思うと深まる、ハマる、なかなか止めない。正にオタクです。
彼らは、アクティブシニアのように華々しく、刹那的にドカンと消費をしないかも知れませんが、ライフタイムバリューで計ると沢山お金を使ってくれる可能性を秘めています。「そんなシニア、実在するの?」と当時のチームでも懸念があったので、クラスタ判別式を使って該当者を抽出し、突撃お宅訪問をしてそれを実感しました。「賢く節約、楽しく消費!」というのはその取材時に得たターゲットからの金言の一つです。
次回<後編>では、これから注目のシニア「オタクティブ自分的男子」「オタクティブ美的女子」や、超高齢社会ニッポンの課題解決に向けての取り組みについてお伝えしたいと思います。
*「ADK生活者総合調査」とは
20年近く継続している当社の生活者データベースとなる総合調査。生活行動・意識価値観・メディア接触を多面的に把握するネット調査で、2018年調査は関東一都六県と関西二府四県在住の15~79歳男女約1万6千人から聴取。シニア層(60~79歳)の対象者は2千人強。